自己理解とは何を指すのか
就職活動やキャリア選択を考えるとき、「自己理解が大切だ」とよく言われます。
では、なぜ自己理解が大切なのでしょうか。
そもそも、自己理解とは何なのでしょう。
実は、「自己理解」という言葉は広辞苑にも載っておらず、明確な定義はありません。
私自身、この言葉を何度も使いながら、「本当にわかっていると言えるのかな?」という感覚を拭えずにいました。
ただ、この「自己理解」という言葉。英語では self-awareness と表現され、英英辞書には定義があります。Cambridge Dictionaryでは、次のように説明されています。
self-awareness:
Cambridge Dictionary
good knowledge and judgment about yourself
日本語にすると、「自分自身についての十分な知識と判断力があること」。
この定義を踏まえると、自己理解とは、自分の価値観、気質、性格、考え方や行動の傾向などを深く知り、「こんな場面では、私はこう反応しやすい」という傾向を把握したうえで、その自分を前提に、現実的な判断ができる状態だと言えるでしょう。
世の中でよく語られている自己理解の方法
一般的に、自己理解の方法としてよく挙げられるのは、次のようなものです。
- 過去を振り返ること
これまでの体験や行動を振り返り、「何を大切にしてきたのか」「どんな判断基準を持っているのか」といった価値観を整理する。 - 性格診断・適職診断を受けること
診断テストを通して、性格傾向や得意・不得意、行動のクセを把握する。 - まわりから見た自分を知ること
家族や友人、同僚など、身近な人に自分について尋ねてみる。
人からどう見られているのかを知り、意外な一面に気づくこともある。
こうして集めた情報を整理する枠組みとして、Will-Can-Mustという考え方が使われることもあります。
自分のやりたいこと・できること・求められていることを重ねて考えることで、興味や強みを社会の中でどう活かせそうかを整理するためのものです。
Will(やりたいこと)
自分が興味を持てることや、やっていてエネルギーが湧く感覚に近いものです。
Can(できること)
これまでの経験やスキルの中で、比較的無理なく発揮できる強みや得意分野を指します。
Must(求められていること)
周囲や社会から期待されている役割や責任です。
これらはどれも、自己理解を深めるための有効な手がかりです。実際、取り組めば「それなりに自分のことがわかった」という感覚は得られます。
私自身も、こうした方法を一通り試してきました。
それでも、腑に落ちない人がいる
けれど一方で、「わかった気はするけれど、どこかしっくりこない」――そんな感覚を抱く人がいるのも事実です。
性格分析をしても、適職診断をしても、「当てはまる部分はある。でも、これが“私”だと言い切れる感じがしない」。
それは、ツールが悪いからとは限りません。
むしろ多くの場合、やり方の問題です。
そしてそれは、理解が浅いからでも、取り組み方が間違っているからでもありません。
見ようとしている心の層が、少しずれていることが多いのです。
質問票では見えにくいものがある
質問に答える形式の診断は、手軽です。けれど、その手軽さゆえに、見えにくくなるものもあります。
たとえば、
- 普段、心がけている姿勢で答えてしまう
- 社会的に「良い」とされる基準に寄せてしまう
- 後天的に身につけた役割やマナーが反映される
- 質問の意図が伝わらず、回答がズレてしまう
といったことが、質問票では起こりやすくなります。
特に、外の基準に合わせようと頑張ってきた人、「ちゃんとしよう」「期待に応えよう」としてきた人ほど、質問票形式では、意識的につくってきた面が反映されやすくなります。
それは、その人がブレているからではありません。むしろ、環境に適応してきた証でもあります。
そのとき、結果として得られるのは、努力を前提にした自分の姿になりやすいのです。
私が気質を自己理解の手がかりにしている理由
私が自己理解を考えるとき、ひとつ大切にしている視点があります。
それが、気質です。
気質とは、考える前、選ぶ前、頑張る前に、無意識のうちに引っ張られている方向性のこと。「どう考えるか」よりも先に、「何に反応してしまうか」。
そこに、気質はもっともはっきりと表れます。
エニアグラムという枠組みについて
エニアグラムは、人を9つのタイプに分ける性格理論です。その特徴は、行動ではなく、価値観をベースにタイプを捉える点にあります。
何を大事にし、何を避けようとし、どんなところに無意識の引力が働いているのか。
その引力はときに、認知の歪みや生きづらさ、「頑張っているのに、なぜかうまくいかない感覚」を生み出します。
同じ気質でも、現れ方は変わる
エニアグラムでは、同じタイプであっても、その人の状態によって現れ方が大きく変わると考えます。これを「健全性」という視点で捉えます。
性格は、固定されたものではありません。同じ気質を持っていても、どんな経験をし、どんな環境にいたかで、表に出る特性は変わります。
木にたとえると、自己理解はこうなる
自己理解を、木にたとえるなら。

木の種類が「気質」
枝ぶりや育ち方が「環境や経験」
手入れの仕方が「これからの選択」
木の種類は変えられません。けれど、どんなふうに伸びるかは変えられます。
まずは、自分の木の種類を知ること。
- どんな土壌でよく育つのか。
- 何がストレスになりやすいのか。
- どんな手入れを心がけるといいのか。
- そして、どんな花を咲かせやすいのか。
「自分は、どんな気質を持っているのか」を知ること。それが、自分を客観視し、受け止め、次に進むための土台になります。
結び:自己理解を考え続けるということ
今回は、私が考えている自己理解について書いてきました。
自己理解は、自分を分類したり説明しやすくするためのものでもありますが、それだけにとどまるものではなく、自分の反応や選択を、少し距離を取って見つめるためのものだと、私は思っています。
「どうあるべきか」ではなく、「私は、何に反応しやすいのか」。
そこに目を向けることで、これまで無意識に背負ってきた努力や役割が、少し軽くなることがあります。
自己理解は、完成させるものではなく、その都度、立ち止まって確かめ直していくもの。
もし今、自分に対して「わかった気はするけれど、どこか腑に落ちない」というような感覚があるとしたら、それは、もう一段深いところを見にいくタイミングなのかもしれません。
考える中で疑問が生まれたら、誰かと一緒に言葉にしてみるのも、ひとつの方法です。









