「言ったはずなのに、なぜチームは動かないのか?」
ある企業でのこと。営業チームに対して、顧客情報の入力ルールを見直しました。目的は、顧客対応の質を高めるための情報管理の徹底です。
「この項目に、どのタイミングで、どんな文言を入力するか」
ミーティングでは丁寧に説明し、全員が「わかりました」と頷いていました。
ところが数週間後、入力漏れが相次ぎます。
- きちんとルール通り入力しているメンバー
- 毎回どこかしら漏れてしまうメンバー
- そもそも記入を忘れているメンバー
原因は何でしょうか。単なる「だらしなさ」なのでしょうか。
実はこのケース、やり方は伝えていたものの、意義や背景が伝わっていなかったのです。
- なぜ入力が必要なのか
- それをすることで、誰が助かるのか
- やらないと、どんな影響があるのか
こうした意味づけが抜け落ちると、納得を重視するメンバーにとって、ルールはただのノイズにしかなりません。
やり方がわかれば動けるタイプの上司
上司は「全体の目的を察し、やり方さえ分かれば迷わず動けるタイプ」でした。だから、方法を説明すれば部下も自然と理解し、動くはずだと考えていたのです。
しかし、現場にはさまざまな価値観や受け取り方を持つ人がいます。
だからこそ、「相手の回路」に届く伝え方が必要です。そこで鍵となるのが、エニアグラムの「センター」という視点です。
本記事のテーマ
相手の判断軸に合わせて伝えることで、チームは動き出す。エニアグラムでは、人の判断や行動には3つのセンター(中核的な判断軸)があるとされます。
- 思考センター(頭):
論理や見通しを重視する - 感情センター(胸):
つながりや評価、共感を重視する - 本能センター(腹):
直感や自由度、納得感を重視する
誰もがこの3つを持っていますが、どれを最も強く使うかは人によって異なります。
たとえば、理路整然と説明しても、相手が「しっくりこない」と動かないのは、その人が感情や本能を軸に判断しているからかもしれません。
センター別:伝え方のポイント
思考センター(タイプ5・6・7)
- 大事にすること:
論理、見通し、選択肢 - 傾向:
納得できる根拠を求める/先を考えて不安になりやすい - 組織内で起こりがち:
背景が曖昧だと動けない
- 「なぜ必要か」と「どう進めるか」をセットで
(タイプ5:納得できる理由と手順を求める) - 全体像を俯瞰できる形で示す
(タイプ6:先行きの不安を軽減) - 複数の選択肢や進め方を提示する
(タイプ7:自由度と柔軟性を確保)
感情センター(タイプ2・3・4)
- 大事にすること:
人間関係、感情の共鳴、評価 - 傾向:
共感を重視/冷たさに敏感 - 組織内で起こりがち:
正論だけではやる気が出ない
- 正しさより、まず共感を示す
(タイプ2:人間関係の温かさを重視) - 努力や背景に言及して評価する
(タイプ3:成果や貢献を認める) - 感情や価値観を受け止めたうえで伝える
(タイプ4:自己表現や個性を尊重)
本能センター(タイプ8・9・1)
- 大事にすること:
納得感、主体性、裁量 - 傾向:
強制には反発/自由度を重視 - 組織内で起こりがち:
上からの命令にストレスを感じやすい
- 要点を簡潔に伝える
(タイプ8:冗長な説明を嫌い、直感的判断を好む) - 判断基準や優先度を明確に示す
(タイプ1:正しさ・秩序を重視) - 最初の一歩が動きやすいように背中を押す
(タイプ9:優先度や動き出しの指針が必要)
「自分の伝え方のクセ」にも注意
人は、自分が使っているセンターを基準に伝えがちです。理解力の高い人ほど、「なぜこの説明で伝わらないんだ?」と感じやすい。
でも、それは「相手の回路を通していないだけ」かもしれません。
- 感情で動く人に、理屈だけを伝えていないか?
- 主体性を重んじる人に、一方的な指示になっていないか?
- 不安を感じやすい人に、見通しや選択肢を示せているか?
こうした問い直しをするだけで、伝わり方は大きく変わります。
おわりに:センター思考が、組織に深い変化をもたらす
マネジメントでは、「何を言うか」以上に、「どう伝えるか」が成果を左右します。相手のセンターに配慮できると、指示は単なるルールではなく、信頼や行動につながります。
人は、理屈だけでは動きません。
思考・感情・本能という多様なチャンネルを持つからこそ、そのすべてに届く伝え方ができるリーダーが、組織の空気を変えていきます。